路地裏のつぼみ



もう一ヶ月も前のこと。
5月8日、仔猫を保護した。
そのコはいま、私のもとにはいない。
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春になって深夜に時おりこのあたりで見かけるようになったちび猫。
おとな猫の姿はもう半年も見かけていないのに、なぜか突然ひとりちび。
生後約半年で保護した当時のすずより半分くらいのサイズ。
見かける頻度が上がり、うちも含めて近隣のゴミ袋が破かれるようになり、
あぁちびや、その小ささでひとり生きるに必死なきみも
このままだと嫌われて追われてしまう、なにより車道が危ないのだ。

最もよく見かけていたナオトが「グレーに白」と言うので
銀さんと同じサバ白かと思っていたらほんとにグレーに白。

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見かけなくなることを祈って目の端で見ぬフリをするか、
ぐしゃぐしゃになった猫の死体を拾うか、
それよりマシな行動はいくつかある。
「あーかわいそう」「あー見たくない」
目の前のちび猫一匹、路上から消すなら自分の手で。
性別もわからんのに雷三(らいぞう)と呼び、保護することに決めた。
個人的には断固おとな猫推しだけれども、
小さくてかわいいうちがもらわれやすいのも事実。
すずはいっちょまえにアニキになって、らいぞのしあわせを応援するのだ、
と道筋を立てながら、ナツの捜索時に見習った捕獲の手順を踏むこと一週間、
チーム銀次所有の捕獲器で、一発成功。
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その日は日曜日で病院は混んでいて三時間近くかかった。
皮の手袋をはめた先生たち三人掛かりで捕獲器からひっぺがし、
ノミとおなかの虫をいっぺんに退治する薬を滴下。
大暴れでおしっこをまき散らす雷三の首から血液を採り、わかったのは、
メスであること、そして、FeLV 陽性。
「残念。こんな仔猫で、珍しいね」と先生。
「でも、よかったです、今夜、わかって」
通院を翌日にしていたら、すずとの隔離を不十分にしてしまったかもしれない。

タクシーに乗る。ぶるる。歯が鳴る。
正直、自分が病を告知されたときよりショックだった。
100%かわいく、すぐにでも安全でしあわせな暮らしを始められるはずの仔猫。
FeLV 猫白血病ウイルス感染症
この病気であれば、簡単ではないだろう。
風太もすずも、拾ってみたらキャリアだった可能性はあった。
いつだって、常にある。そうでないことを、願うしかできない。
そうでなかったら、を考えすぎたら私はきっと何もできなくなる。
とはいえ、あぁ、どうすれば。

店に戻ったのは24時近かったのに、携帯を持っておらず途中報告のない私を
みな終電ぎりぎりまで待っていてくれた。もちろんすずも。
まずは隔離だ。
事務所にあるすず用の二段ケージを使うつもりだったけれど、
あとで洗いやすい一段ケージを物置から出して組み立てた。
GWに臨時営業した代休で翌日から二連休。
それもあってこの日を捕獲決行日に選んだ。
ひとまずすずは自宅に置いておけばいい。
その間に、どうするか考えよう。
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あぁ名前。メスだったから雷三じゃダメだ。
ひっくり返して「みらい」?
雷にくさかんむりをつけて蕾(つぼみ)、どう?
うん、きみは路地裏に咲く花だ。
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それにしても、なんという皮肉だろう。
今この私に、不治の病を背負った仔猫。
FeLVキャリアには一年と三年の壁があると言われる。
もしもそんなふうに限られた命ならば、私でも添い遂げられるのでは?
しかしさくらとすずと、三匹の命を背負って、
どう暮らす?どうすれば全員が安全でしあわせ?

シェルターでたくさんのキャリアっコを抱える犬班おっちゃんに相談する。
「あなたが引き受けることだけは絶対に反対。
あなた木曜から投薬でしょ?できないでしょ?
友人として、手伝うから。
人馴れ訓練と治療を、あたしがやっておくから。
その間に、あなたが里親を募集して。
引き受けてくれるヒトに、たった一人、出会えればよいのだから」

木曜から投薬で動けなくなることは事実。
隔離どころか三匹の世話さえできない。
友人としての言葉、心強く、ありがたいことも事実。
それ以外は…何とも言えないけれどひとまず
つぼみを郡山で預かっていただくことにした。
なんということをヒトに押し付けるのか。と
我ながら情けなくて呆然としたまま。

月曜の間つぼみは、ケージの中に置いた段ボール箱の奥に潜り込んで
まったく動かず、ごはんも食べなかった。
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火曜日、出発の朝、皿は空になっており、水の器はひっくり返っていた。
ケージに段ボールを入れておいたのは正解だった。
つぼみは奥で縮こまったまま。
洗濯ネットを箱の上からかぶせ、箱を逆さまに振ってポトン。
そのままキャリーにイン。

急遽いっしょに里帰りすることになった日陰亭預かりのロキシーを連れ
あやこが上野駅のホームで見送ってくれた。
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つぼみはいないみたいに静か、ロキシーはたまにひんひん小声で鳴き、
おかげで席を立たずに済んで70分。
郡山駅にはおっちゃんが迎えに来てくれて、重たく運ばなくて済んだ。
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シェルターに入るためにはワクチン摂取が必須なので
午前の部の最終に間に合うよう、まずは病院に行ってお預けする。
体重は1.46kg。生後3〜4ヶ月。
歯が、すずと同じでガチャっ歯だった。栄養が足りなかったしるし。
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日比さんのお宅で東京に持って帰る分のキリキリ作業をやっつけて、
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犬班おっちゃんだいすき、あいちゃん
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(全国のみなさまからご参加を得て今年は
 エフまとめ分だけで62口を応募できました!)
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村の給餌から戻った日比さんを待って、
みな大好物のゆうさんのカレーを美味しくいただき。
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飯舘村出身イヴさんを囲んで、ため息ばかりの村の話。
いやホント…イレギュラーの子猫増やしてる場合じゃないのだよ…
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その日のおっちゃん こと 犬班A。さんのブログ[こちら

翌日もすずは自宅待機とし、つぼみが使ったケージを畳んで洗浄&消毒。
隔離は無事完了した。
私は、でも、自分ではやらずに他人に呼び掛けることが、とてもしづらい。
自分がやらないことは、ツイッターでリツイートさえしづらい。
自分さえ共感できないアクションを、誰かが共感してくれるはずもなく。
だからずっと書けなかった。今だって、なにか筋が通ったわけではまったくない。
いつまでも書かない私に呆れながらも
おっちゃんはつぼみを毎日抱いてくれている。
シェルターではつぼみが占めているわずかのスペースも、
次の猫たちが空くのを待っている。
猫の時間はヒトの5倍の早さで過ぎる。
すでに腕の中でうっとりした顔を見せ始めているつぼみは
元の顔がわからないくらい「ほげ〜」としている。
私はこのコを、一度も素手で触ってあげなかった。
自分でも、そのことの意味がまだよくわからない。

以下5枚、犬班おっちゃん撮影の写真。
ツイッターで「今日のうっとりちゃん」に毎日出会える。
路地裏のつぼみ_a0180681_1050206.jpg

個性的な鼻周り、と喜んでいた読点[、]みたいなのは
模様でなく汚れでやがて落ちてしまった。
それにしても私のところに来る猫はどこまでも模様がバラバラよのう。
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ちっちゃな体で全力で威嚇していたつぼみの攻撃力の弱さから
おっちゃんの見立てでは、完全な野良出身ではなく、
つぼみまたは少なくとも母親はヒトの手を知っているのではと。
つまりどこかで棄てられた猫。
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病気はお母さんから受け継いだのだろうか。
どの時点からひとりで生きて来たのだろう。
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ともかく今は、ほげ〜
縮こまっていたもとの顔を忘れちゃうくらいだよ
怖いもの、もう何もないからね
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5656イベント発起人で私もたいへんお世話になっている
作家の加門七海さんと暮らしている「のの」さんは、FeLVキャリアで8歳。
ストレスのない暮らしで長生きもできるという希望の星だ。
(加門さんのモーレツな猫馬鹿献身ぶりはエッセイ『猫怪々』にて)
今回も真っ先に応援を申し出てくだすった。
つぼみはののさまを、憧れのあねさまと慕います。


長くは生きられないかもしれない仔猫、
長くは生きられないかもしれない老猫、
長くは生きられないかもしれないニンゲン、
結局のところ、誰もが限りある命のなかで生きているわけで。

つぼみの生涯はまだ始まったばかり。
おひさまのいっぱいあたる窓辺で、白いハラ毛をそよそよさせて
やさしい手でなでられ、抱かれ、ほげ〜 と眠る。
ただそれだけの、それこそが最高の、日々を約束してあげたい。

つぼみと共に生きてくださる方に、出会えることを願って、
つぼみの生涯の家族を募集します。
FeLVキャリアのつぼみは、キャリアでない猫といっしょの部屋では暮らせません。
ペット可の住居で完全室内での終生飼育が大前提で
他に猫さんがおらずつぼみを一匹だけで迎えてくださる方、
もしくはFeLVキャリアの猫さんといっしょに暮らさせてくださる方、

またはそのようなお友だちをご紹介くださる方、
メールまたは店頭にてお声掛けください。
私自身の治療のため一週間おきに不在になりましてご不便をおかけします。


一年前の今日(6/4)、私は病院で告知を受け、
そのまま40日間入院した。
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前夜に急遽、日陰亭に預けたすず
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その朝見送ってくれたさくら
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余命と言われた九ヶ月はすでに過ぎ、
この一年、「辛い」は少々あっても、
「怖い」と思ったことは一度もない。
これからもない。
それは初めて訪れたシェルターのキャリアっコ部屋
私を貫いた猫たちの生きるチカラが
私の中に丸ごと宿って、生き続けているからだ。

命のかぎりまっすぐに生きる猫たちが教えてくれる。
猫たちを日々守るヒトたちが教えてくれる。
彼らがよりよく、よりしあわせに暮らせることが、
私のただひとつの望み。願うだけでなく、叶えていきたいから、
いまは何が正しいかわからずにいるけれど、導く声を探して。
暗闇にすずの丸黒目を見つけたように、
きっと見つけられることを信じて。

路地裏に咲くつぼみ、どうぞお見知りおきください。


[追加]



by ginji_asakusa | 2016-06-04 22:22 | 生きるチカラ


浅草ギャラリー・エフの看板猫・銀次親分の日々。


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