犬と猫とヒト 1

銀次親分、では行って来ます。
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朝4:30に出発して東北道で福島県を目指す。
半分を越えた那須高原SAで休憩を取り、
待ち合わせの 7:30ぴったりに安達太良SAに到着。

雑誌『ねこねた』のための銀さんの取材で知り合った
写真家の上村雄高さんが一年前から続けておられる
相馬郡飯舘(いいたて)村での犬猫給餌に同行させていただけることになった。
飯舘村は原発から約40kmの計画的避難区域。

上村さんと初めてお会いした日、今しかない!ここぞ!とばかりに
私がモーレツにアピールしたのは二つ:
無関係を装うどんなアートよりも、いま私がやりたいのは原発事故の現実、
特に動物関連の展示であるということ、
そして運転はできないけれど足手まといにならないようだったら
給餌活動に同行させていただきたい、ということだった。
上村さんは快く、ぜひ今度いっしょに行きましょう、と言ってくださった。

3.10公演を終えてやまゆり報告会の準備を進めるため3月と4月前半は見送り、
GW前にということで、奇しくもやまゆり会期中の定休日で日程を決めた。
牧場にも寄れたら寄ろうかと話していたけれど、初回なので犬猫に絞ることに。

私といっしょに行くのは画家の山田クン
昨夏の牧場行きには都合が合わなかったため、今回声を掛けてみた。
この二年間、原発事故の話をともにできるアーティストといえば
唯一山田クンだけだった。
まどかちゃんも行きたかったけれど平日の仕事の合間の日帰りは
キツイので次回に見送ることに。


週末の寒気で東北地方は大雪が降り、チェーンが必要かと
心配していたけれど、道路の雪も二日経ってちょうど溶けたようだった。
免許を持っていなくて運転も全くできないのでたいへん心苦しいのだが、
どうぞよろしくお願いします。

車の中でいろんな話。
私と山田クンはいわゆる「放射"脳"」と呼ばれるのであろう。
放射能の危険や脱原発を公言し、SNSでは意見の違いから
別れてしまった友だちもいると山田クンから聞いていた。

二年が経って、なんかもう、それぞれの事情があっての判断だし、
それぞれの人生だし、救うことなんてできないし、
だったら言ってもしょうがないんだよな、と同じに諦めを抱えていた。
子を持つお母さんにさえ、そんなの気にしてたら子育てできない、と言われた。
ヒトは救えるとも変えられるとも、思っていたわけではなかった。

ヒトはそれぞれに辻褄を合わせて生きてゆく。
汚染により辻褄の合わなくなった自然が、その牙を剥く日まで。
ヒトには直ちに影響はないとしても、剥き出しで二年間(そして今後も)
被曝し続けている自然界がどのような進化を遂げるのかは、誰も知らない。
放射能の影響をナメることは、核アル世界を容認し、
広島、長崎、ビキニ、チェルノブイリの悲劇を否定し、
すなわちジンルイの罪を軽く見積もる姿勢だと思っている。
だから私はその仲間にはなれない。
だから私は、ヒトに巻き込まれた動物たちに絞ろうと決めたのだ。

それでもそこには必ずヒトが関わっている。
希望の牧場を始め、動物レスキューの活動をしている方たちが
自ら被曝をしながらもそれぞれどのような想いで携わっておられるのか、
体験や想いを直接聞くことで、自分自身の考えや取るべき行動も
見えるようになっていく。そこには放射能は安全かどうかという話などない。
放射性物質のまっただ中=現実での「行動」しかない。
私はそうやって犬と猫と牛たちとヒトとのことを考えていきたいと思っている。
少なくとも、何もなかったことにしないための一端でありたいと思っている。
原発を乱立した世代に続き、過酷事故を経てなお隠蔽し原発を存続再開した
おぞましい世代の声なき一人として生きることを肯定したくない。


最初の給餌ポイント @9:00
車が着くと猫たちが3匹ほど集まって来た。
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事前に教えていただいた各人の持ち物は
◎カッター:餌袋を開ける
◎スプーン(カレー用くらい):缶詰から餌をほじくり出すので強めのもの
◎ウェットティッシュ:使ったスプーンや手を拭いたり
いちいち手を拭くのは面倒なので薄手のゴム手袋もあるとよいかも。
これらは各人がポケットやポーチに常に持っているとよい。
貸して、どこだっけ、とやっている時間が省ける。
各人持っていてもどこかに置き忘れてしまうこともあるから二本くらいずつ。

つくしなんて見たのはどれだけぶりだろう。
日陰には雪が残っている。
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土壁が剥き出しの家々は、土がだいぶ崩れて木舞が見えている。
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二軒目の家には小さな物置小屋があり、その中に餌を置く。
上村さんと同行しているのは動物ボランティアをされていて
犬の散歩が趣味という女性、Kさん。
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周囲は雪景色。
30cmも積もったんだよ、(この時期)こんなの初めて、と村のヒトが言っていた。
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最初の犬。警戒心が強く、おやつも口にしない。
無理はせず、お散歩にも行かないことにした。
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れんぎょうが満開。
ぽかぽか陽気で、上半身5枚下半身2枚も着てきたから暑いのなんの。
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続いてのお宅、マメちゃんです。
マメちゃんについて詳しくは上村さんの過去の記事をご覧ください。
こちら]と[こちら]と[こちら
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お手々かわゆ。
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マメちゃんのしっぽは見たことないくらい三角形に折れ曲がっている。
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一人で来るときはマメちゃんと2時間過ごすこともあると上村さん。
わかる。こんなにヒトを恋しがって。
メシよりもヒトに触れているほうがうれしいようだった。
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マメちゃんゴロスリ動画。


マメちゃんの家は今回の行程でいちばん線量の高かった場所で、
線量計は 4μSv/hを超えていた。
そのすぐ先は帰還困難区域で住民以外の行き来は禁止されている。
こんな場所で立たされているのはマスクだけ着けた若い警備員。
あの先の犬猫たちはどうしているのだろう。
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次のお宅には痩せ細った一匹の猫がいた。
お宅の中に入るのはこれが初めてで、生活感は残っているし、土足だし、
最初はかなり抵抗があった。
中に入る家はもちろん持ち主から許可や依頼を受けている。
箪笥の中にはボランティアが残していったフードが大袋のままたくさん入っている。
猫は外に出られるようになっているものの、トイレは備え付けのものを使うようで
ほとんど使うところがないくらい糞尿が山盛りだったので片付ける。
トイレ砂も補充分が置いてある。
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痩せているのは飢えによるものではなく、フードはこのようにふんだんにある。
明らかに猫白血病だろうなぁ、痩せてるし、そんな顔してる、と上村さん。
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見た目からは意外なほどガツガツ食べていた。
満足して猫は居間のほうへ行き、日の当たる窓際の椅子で横になった。
誰もいない家の中でひっそりと息を引き取るであろう猫のことを思うとせつない。
それでも、たとえ一匹でも生き物のいる家は上村さんたちの給餌ルートに入っていて、
少なくともこのコの死を知るヒトたちは、ちゃんといる。


次のお宅も中へ。ここにはたくさんいた。
あちこちから現れるので数えられないくらい。
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やわらかい缶詰でもかたまりだと食べにくそうにしている黒猫。
エイズかなぁ。みんな歯は悪そうだ。
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家の玄関には「たぬきが入りますので閉めてください」と張り紙があった。
こちらはたぬきのようで猫である。かわえぇ…
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外にもかわいい猫さん。耳切ってある(手術済み)。
ボランティアチームはこの地の猫たちに避妊手術を施し、戻すこともやっている。
そうでなければいくらでも増えてしまう。
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次のお宅は二頭の犬。
この犬舎もボランティアさんが作ったものだそうだ。
餌を狙ってやって来た猿に襲われて大怪我をしたため、安全なハウスを建てた。
こんな風に、ボランティアの関わり方はいろいろある。
あのコにハウスを作ってあげよう、と思ったなら
それだけで一日を費やすこともあるのだろう。

ここで初めてのお散歩。飼い主さんもちょうどおられたけれど
二頭を散歩させるのはなかなかできない様子で、助かるなぁと言っていた。

犬たちはリーシュを着けてもらって待ちきれず、柵を突き破って出たい勢い。
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外はこんな景色。
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交替で行くかと思ったら、Kさんと山田クンは元気いっぱいな犬たちに引っぱられ
あっという間にカーブを曲がり坂を駆け上がって、私が曲がったときには
もう姿が見えなかった。オレあんなに走れん…

お散歩終わって水ゴブゴブ。なんとうれしそうなこと。
猫の「べ、べつにうれしくなんかねぇゼ」って感じと違って、
犬はこのまっすぐさが、いいんだろうなぁ。
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犬たちも慢性的に運動不足なので、一度にそれほど長時間の運動は要らない。
10分ほどで帰って来て、うれしさとともにゼハゼハヒィヒィ言っている。
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他県からのボランティアだけでなく村には村民の方々による「見守り隊」
という組織があり、常に地域を見て回って留守宅や動物たちを守っている。
このお宅にいたときも女性二人がいらして「他県ナンバーだったからさ」と
声を掛け、「動物の給餌や散歩に」と答えると、ありがとうと言ってくださる。
「なーかなかできることでねぇべ。放射能とか、気にしねぇの?」
と笑っておられ、栄養ドリンクをいただいた。

こうした会話から上村さんたちは、どこの家にどんな動物がいるとか、
手放すことや病気の相談などをていねいに聞き取り、活動に反映している。
ボランティアグループの実績や横のつながりから、
村のヒトたちにも安心して任せてもらえる。
関わって来たヒトたちの根気強い活動の継続に頭が下がる。


次のお宅では猫たちは室内で寝ていた。
布団の上には吐いたものがあった。
室内だけにいる猫たちは、飼い主が頻繁に戻って来ているのだろう。
「このお宅は?」といちいち上村さんに訊き、「毎日」とか「二日にいっぺん」とか
「ほとんど来ない」と教えていただきほっとしたりぞっとしたりする。
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次のお宅のウタちゃん。マメちゃんに続いて人なつこく、
車の音がすると通りまで迎えに出て来る。
上村さんはウタちゃんが産んだ子猫4匹(!)を引き取って育てている。
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メシメシ。
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立ち上がっちゃうほどうれしい。そして帰ってほしくない。
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"猫獲り" は猫の敵だけど、こちらの兄さんは "猫撮り" ね。
猫撮るを撮る。
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あまりにハラを出すので調子に乗ってウリウリーモフモフーとやっていたら、
興奮したウタちゃんにガブ&ケリーを見舞われた。
ガブには歯が付き物であることを、オレはこの3年間完全に忘れていたね。
手の両側にぷっすり穴が開いた。
その歯の跡さえ勲章のようににやにやと眺めてしまうものだがね。


ウタちゃんが通りまで追って来た。
往来は少ないとはいえ、車に気をつけてくだされよ…
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去り難い、こんな想いを、何度重ねて来たのだろう。
だからまた来るのだ、このヒトたちは。


ここまでが午前の部。記録が抜けていなければここまでで9軒。
ランチタイムなんて呑気なものはなく、
持参のおむすびやパンなどを移動の合間にぱくぱく。

つづく



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