日だまりの銀さん

病院から戻り、フロントシートで銀さんを抱く。
抱っこが大キライだった銀さん。
こんなに長い時間しっかりと抱いたのは、最初で最後でした。
晶子さんが撮ってくれていました。逆光がきれい。
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銀さんが旅立ったのは、こんなやわらかい日だまりの中でした。
まだこのときは体が温かくてふにゃふにゃで、
しっかり抱いていないと崩れてしまうのでした。
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鼻には綿が詰めてあるけれどピンクだし、
寝ているようにしか見えない。
やっぱり私もまだ寝ていて、これは悪い夢だよね?
起きて、銀さん、起きてよ…
今日はこれから蔵の大掃除だよ、
親方がいなくちゃ始まらないし終わらないよ。
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旅立つというにはあまりに支度もなく、
間違えて体から飛び出してしまったかのような一瞬のできことで、
これは間違えだからどうかやり直させてくださいと
この世とあの世のすべてにすがって祈り叫んだ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

12月29日、開店からカフェにいらしていたのは、
奇しくもぷちにゃサポーターのリンさんとAさんだった。
すなわち母と晶子さんに加えてこのお二人が、
銀さんを看取ってくださったことになる。
Aさんは介護のお仕事をされており、直ちに銀さんの口に
指を突っ込んで舌が詰まらないようにして気道確保、
リンさんは心臓マッサージをしてくださった。

その間に晶子さんが私の自宅に掛けて来た電話からは、
みんなの叫び声がするばかりでまったく状況が把握できなかった。
ともかく銀さんに異常事態が起きていて、私はそこにいるべきなのにいなくて、
でも病院は自宅からのほうが近いから、
銀さんとタクシーでこちらに向かってもらうほうがいいのか、
私がそちらに向かったほうがいいのか、
私が店に向かったほうがいいということは、
もう間に合っていないということなのか、
全然意味がわからない。

飛び出してタクシーに乗り、店に到着するとそこは救急救命室のようだった。
銀さんは目を見開いたままだらりと四肢を投げ出していた。
「諦めちゃダメ!」とAさんが声を掛け、みなが銀さんの体にすがりつき、
胸の辺りを押し、押さえた舌に沿ってストローで息を吹き込んでいる。

震える足で二階に上がって震える手で病院の領収書を探し、電話をかける。
もう10分も経っているなら厳しいけれど、ともかく来てと言っていただけたので、
銀さんを毛布に包む。
リンさんが、どうやって心臓マッサージするかを伝えてくださっているが、
頭も視界も真っ白。
なに、なに、どこが心臓、心臓をどうするって?

いっしょに行って、とリンさんにしがみついた。
「わかった、行くからね!」とリンさんは銀さんを抱いたまま車に乗り込み、
銀さんの体を平らに保てるよう自分は後部座席の背に首だけもたれる格好になり、
おなかの上に銀さんを乗せてポンプし続けていた。
私は道案内をしながら必死で銀さんの名を呼び続けた。
早く、この大声で、夢から覚めて。
一刻を争うあまりの緊迫ぶりに、運転手さんが赤信号で
「ごめんなさい!」と叫ぶ。いや、赤は止まろう…

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

今年の夏、ぷちにゃ相談でリンさんが初めて私に会いに来てくださったとき、
お話の途中で銀さんが起きて来たので「あ!銀さん起きましたよ〜」
と紹介すると、「あ、うん…」とリンさんは気のない返事だった。
立ち上がって銀さんに近づこうとしないどころかよそよそしい感じで、
珍しくもこの方は、猫が好きではないのに
こんなにも猫グッヅを応援しておられるのか!と驚いた。

もちろん猫がだいすきなリンさんは、おうちにも猫さんがおられる。
その猫さんがヤキモチを焼くので、浮気は一切しないと決めていたのだった。
滅多に起きていない銀次親分がおもてなしに登場してもその誓いは変わらない。
ヒョー! そうは言っても隠れて浮気してるもんでしょみんな。
コロコロしてシャワーに直行して証拠隠滅してただいまするもんでしょ。
そこまで操を立てている方を、私は見たことがなかった。

そんなリンさんが、全身で銀さんの体と命にしがみついてくださっていた。
だからやっぱりこれは夢なんだよ。
奇妙で意味がわからないのが夢だもの。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

病院に着き、銀さんはすぐさま心電図につながれ、気道が確保された。
リンさんが先生に、起きたことを説明してくださる。
銀さんがキャーンと絶叫して駆けつけたときにはすでに心臓が止まっていたこと、
フードを2、3粒吐いていたけれども詰まらせたという様子ではなかったこと。
先生はそれを聞き、そうであるなら一瞬のことで
苦しむ間もなかったでしょう、と言った。
しばらくして先生が「波形が出ません、これはもう…」と言い、
リンさんが「泉さん、器械を外してあげようね」と言った。
銀さんは、戻って来なかった。


再びタクシーで店に戻り、まだやわらかくあたたかい銀さんの体を
フロントシートに横たえる。
最初で最後に、銀さんを丸まった姿勢で抱いた。
銀さんが私に体を預けて抱かれている。
もはや悪い夢なのかいい夢なのかわからなくなった。
銀さんは起きない。銀さんは返事をしない。
意味がわからない。


15時には、年末恒例蔵の大掃除をするため
チーム銀次が集合することになっていた。
向かっているみんなにメールで知らせようかと思ったけれど、
自転車運転中か、驚いて駅の階段やホームから落ちるかもしれないし、
そもそも言っても意味がわからないだろうし、私だってわからないのだし、
ともかく、いずれみな着く。
ともかく、営業はできない。シャッターを閉める。

年末年始営業のおしらせをすでに出していたので、
目指してご来店くださったお客さまが何組もおられた。
シャッター越しに、ともかくごめんなさいと言うしかできなかった。

リンさんが、銀さんのお尻をペットシーツで包んでから
新調したばかりの毛布とあやこ隊長の手編み毛布とで
全身をていねいに包んでくれた。
「銀さん、生まれたての赤ちゃんみたいだね」と声を掛けながら。


やがてチーム銀次がハリキッテ頼もしい服装で次々と到着。
いつもはカフェを営業したまま蔵だけ掃除をするのに、閉まっているシャッター。
その理由を知り、みな言葉を失って窓際に立ち尽くす。泣き崩れる。
意味がわからない。
しばらく立ち尽くしたり座り込んだりを繰り返し、誰ともなく蔵に移動。
大掃除は中止。床だけ磨き、銀さんの寝床と祭壇を作ることにした。


もともと私は、銀さんが旅立つときには葬儀をすると決めていた。
銀さんがパブリックキャットとしてこの場所で生き、
闘病にも心を寄せていただいたからには、
お別れの儀式が必要になるのは私たち家族だけではない。
年末で火葬場が閉まる前に、儀式を済ませなくてはならない。
明日しかない。それが銀次子分の務め。

「猫坊主」改め「にゃんこ先生」も駆けつけてくださり、
明日は友引でヒトの葬儀はないから何時でもいいよ、と言ってくれた。
友引か。
ブログを通してたくさんの友をつないでくれた銀さんにふさわしいじゃないか。
うん、友を呼ぼう。

「四十九日は2月15日だね」とにゃんこ先生。
2月15日は琵琶ッチの演奏会じゃないか。琵琶は鎮魂の楽器じゃないか。
誰の段取りなのかこれは。


リンさんとAさんとのミーティングはもちろん中止でお二人はお帰りになる。
Aさんが「お役に立てず…」と頭を下げた。
母と晶子さんと駆けつけた私だけだったら何一つできなかっただろうし
呆然としたまま病院にさえ行かなかったかもしれない。
私はまたしても自分の猫の看取りを他の方にさせてしまった。
命の重みをその手に預けてしまった。
頭が上がらないのは私のほうだ。
リンさんは、とても電車には乗れないからと、ランニングで帰ると言う。
そして「また明日ね」と。


遺影は、先月プリントしておいた新年用の大型ポスター。
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蔵で写真を撮るときいつも銀さんが胸を張る位置にベッドを安置する。
銀さんはまだ眠っているようだった。
口角もにんまり上がったままだし、目も絵に描いたような三日月型。
オレたち何してるんだっけ、明日はイベントなんだっけ、
そうか、年忘れ・銀次子分寄り合いだっけ?
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けれどもやがて銀さんの体は冷たく硬くなっていった。
17人の子分で通夜をした。
というより私たちは動けずただ夜が過ぎて行った。
ひそかさんが「今日は肉球の日(29)だよ、
しかも12月で、ワンニャン肉球(12.29)だよ」と言った。
もう覚えた… とみんながつぶやいた。

22時を過ぎ、全員が「じゃ、また明日ね」とそれぞれ帰路に着いた。
豆かあさんも? だって遠いのに、と言うと、
「だって私、ヒャクパーだからさ」と笑って手を振った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇

この三日間のこと、まだまだ書ききれません。
銀さん、追いつけないよ。
でも親分が年内に収まるよう段取って行かれたので、
続きの記事はまたの機会に、本日の日付で更新していきます。


この一年間の出会いとみなさまのお気持ちに感謝します。
どうもありがとうございました。



Gallery ef, Asakusa, Tokyo
旧ブログ『今週の銀次親分』

by ginji_asakusa | 2013-12-31 23:48 | できごと | Comments(7)
Commented by ねこなで at 2014-01-01 00:00 x
除夜の鐘を聴きながら、銀さんの最期の様子を知ることができて、
本当に有難うございます。
こんな辛い事実を記して下さって、Izumiさん、チーム銀次の皆様、看取って下った全ての方々にお礼申し上げます。
今、新しい年が明けました。改めて銀さんのご冥福をお祈りします。
Commented by くっちい at 2014-01-01 01:00 x
いづみさん自分を責めないで。親分はきっと最後を見せたくなかったんだよ。最後まで銀次でいたかったんだよ。今もいづみさんの横にいるよ。泣かないでと心配してるよ。
Commented by コテツ母 at 2014-01-01 01:01 x
Izumiさん、辛いですね...
本当に改めて銀次親分のご冥福をお祈りします。
Commented by 春。 at 2014-01-01 02:51 x
Izumiさんの腕に抱かれて銀さん、なんだか赤ちゃんのよう。愛情に包まれて美しい。
パブリックキャットの務めを終えて、やっとIzumiさんの胸に帰ってきたんですね。
新参者の子分の私にはもはや云うべき言葉がありません。ただ、銀さんの鎮魂と、Izumiさんの心が少しずつでも慰められることをお祈りいたします。
Commented by bonnie at 2014-01-01 06:38 x
銀さん、貴方はこんなに多くの人に最期の最後の瞬間まで愛されました。
エフの親分になるまで辛かったり痛かったりした経験があったことでしょう。でも人を嫌うことなく、人の手の優しさを信じて生きるようになった銀さん。貴方のおかげで「浅草には銀次がいる」「ブログを見たら銀さんに会える」と多くの人の生活の励みになりました。Izumiさん&エフの皆さん、素敵な銀次親分との生活を共有させてくださってどうもありがとう。Izumiさん、れんちゃんに続いて悲しい思いをしてると思います。でも銀さんが多くの人に看取られる形で旅立ったのはIzumiさんが彼と暮らすことを決心したおかげですよ。重ねてお礼申し上げます。
Commented by りす吸い at 2014-01-01 14:25 x
izumiさんに抱っこされた姿は本当に眠っているかのような姿ですね。
辛い中、詳しい様子を書いてくださってありがとうございます。
私達、銀次郎親分を好きだったファンにも最後の様子がよくわかり
癒しをいただきました。
もし来世があるなら今度はizumiさんの彼氏となって銀さんはかっこよく
帰ってくるかもしれないなとふと思ってしまいました。
Commented by たま at 2014-01-01 15:44 x
Izumiさま、ナオトさま、晶子さま、
そしてギャラリーエフに関わる皆さま、
深い深い悲しみお察しいたします。
こちらのブログが毎日の楽しみで、れんちゃん&銀さんの日々の様子を見るのがほんとに楽しみで…。いつかお会いできると思いつつ、このような突然のお別れ。
泣いて泣いて。
最期の抱っこの写真は、とても素敵なツーショットですね。
次回、訪問させていただきます。
銀さん、ありがとうございました



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