VOICES FROM HIROSHIMA

ポーレがまとめたテキストを訳して展示用にまとめ直しながら
今回最も心が辛かった広島原爆の証言。
広島で展示できなかったのがほんとうに残念で、ここに紹介します。



胤森トーマス貴士
Takashi "Thomas" Tanemori

故郷が失われたこと、子ども時代を奪われたこと、
核の時代の幕開けとなった原爆投下という恐ろしい屈辱、
それらを理解しなくてはならなかった8歳からの私の人生は
苦しく長い道のりでした。
そのことが私を平和の人とならしめたのです。

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1937年12月15日生まれ。
8歳の時、爆心地から約1kmの広瀬国民学校の教室にて被爆。
兵隊によって瓦礫の下から助け出され、父と再会する。
武家出身の父は役人として忠実であったが平和主義者であり、
決して戦争を肯定してはいけないと子どもたちに説いていた。

十日市の寺町にあった自宅で母と妹二人は即死。
父に連れられ貴士と二人の姉と4歳の弟は爆発から三日後に
広島の街を出て県北部の母方の祖父母の家へと向かう。
駅で迎えた祖母は娘の死を知るや、死体を見つけて来いと父を責め、
追い返した。死体は見つからず、一家は祖母の家に入れず
庭の小屋で暮らすことになる。

9月になると父が、三日後に長姉が放射線障害により死亡、
翌月には父方の祖父母も死亡。
孤児となった貴士たちは引き続き小屋で暮らすしかなかった。
村人たちからは助けどころかいじめを受け、
子どもたちはゴミを漁って飢えを凌いだ。

18歳の時、家族を奪われた恨みと復讐心を胸に移民船で渡米。
ある時食中毒で病院に運ばれた貴士の出身地が知られると、
拘束され人体実験のごとき様々な検査が施された。
言葉も話せない中、脊椎穿刺や電気ショックを繰り返し受け、
あまりの痛みに激しく抵抗すると精神科に移された。
半年に及ぶ拘束の末、ある看護士が彼を保護し、
監獄のような部屋からようやく脱出する。

言葉の壁と闘いながらも看護士の信仰に倣ってクリスチャンを志し、
大学の神学部に進み牧師となり、平和活動家として各地で平和を説く。
しかし人種差別によって教会からも追放され、再び反米精神を強める。

被爆から40年が経った終戦記念日、反核集会での講演へと向かう車中から、
光り輝く雲を目にした彼は、原爆の前夜に見た夢を思い出す。
そこでは平和と赦しが宿る光の中、白い蝶と鶴が舞っていた。
父の姿が彼に伝えているようだった。
「敵への赦しを学ぶことが最善の道だ」と。

その日を境に彼は「復讐は復讐を呼ぶだけ。人類の最大の敵は、
怖れと憎しみが己の中に生む暗闇である」として、
赦すことからの平和を説いている。
癌で胃を全摘出し、視力を失い、盲導犬のユキと
カリフォルニア州バークリーに暮らしている。


関連資料:
地球人間模様@アメリカ[記事]47NEWS

映像による証言記録 filmed by 竹田信平




ポーレは面会の前に、500ページに渡る胤森さんの手記を読んだそうだ。
母方の祖父母の村での話、特にアメリカの病院での拘束の場面は
とても読み進められないほど残酷で辛い記述が続く。
撮影は3日間に及び、その後一ヶ月ポーレは打ちのめされていた。

8歳で原爆に焼かれ家族を失い、16歳で自殺を図り、それでもアメリカに渡り、
数々の惨い仕打ちに耐え、恨みと憎しみの果てにたどり着いた「ゆるし」という光。
40年に及ぶ憎しみを捨てたことが、自らの心を解放したとさえ胤森さんは言う。

胤森さんが生涯を通して支えとしているのは、被爆から一ヶ月後に
原爆症で亡くなったお父さんの存在だった。
8歳の「タカシくん」は68年経った今も、父の魂を通して私たちに語りかける。
テキストをまとめ終わってから、胤森さんの証言映像を見た。
「お父ちゃん」という呼び掛けは、小さな男の子そのものだった。

読むだけなのと実際に聞くのとではこんなにも異なり、
忘れ得ぬ体験として深く胸に残る。
過去のこととして、どうして忘れてしまえるだろう?
たしかに、これまで作業をしてきた中で私にもそういう感覚はあった。
過去のこと。
けれど、原発事故以降、死の灰が降り続け死の水が海へと垂れ流される中で、
平和憲法が改悪されようとしている中で、これらの体験談を
過去のこととして置いておきながら戻る場所はすでになかった。
まっただ中にいる、という焦り。

次の世代である私たちが「繰り返さない」ことを信じて
他界されたたくさんの方々、今も語り続ける方々。
彼らはいかに自分が辛かったかを語っているのではない。
もれなく誰もが「どこの国にも二度と起きてはならない」と伝えている。
どの空からも降ってはならないと言っている。
そのために、憎み合い争うことの愚かさを伝えている。
全員を殺し尽くすことは誰にもできない。憎しみの連鎖は続いてゆく。
だからこそ彼らは、焼かれてもなおその身を反核と平和に捧げ、
世界で最初で最後の被爆者であり続けようとしている。
彼らが私たちの前に立ってくださる時間は
もうほんとうにわずかしか残されていない。
現在胤森さんも療養中でお会いすることはできない。

どの空からも降ってはならぬものは、世界中に一つもいらない。
そんな当たり前のことを、子どもたちこそが言えるように。
この国の子どもたちこそが、世界に向けて言えるように。
広島と長崎への誓いは、今にも破られようとしている。
平和は、祈ればやがて降りそそぐものではないし、
鳩や鶴のように舞い降りても来ない。

こんなことは、活動でも運動でもなく、当たり前のことだ。
なに当たり前のことやってんの、と私は笑われたい。
当たり前だよ、だいじょうぶ、とあの空に伝えたい。
「あなたたちが頼りないから86歳の私が
 国連(NY)まで行ったりしなくちゃならないのよ」
とおっしゃっていた、山下さんに。


広島に原爆が落ちた日。
午前8時15分、その瞬間に十数万の命が失われただけでなく、
苦しみも悲しみも 68年が経った今も続いている。
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