DAY 5:一日目 01 警戒区域

0:30AMに浅草に集合し、まずは買い出し。
自分たち用の保存食や飲料、警戒区域の犬猫たち用のフードなど。
1:30に出発して東北道で福島を目指す。夜間は高速料金半額。
メンバーは私、まどかちゃん、やえちゃん、ドライバーのカトくん。

私は運転できないので、見知らぬ同士の乗り合いを募るか
スタッフの方の都合に合わせて南相馬のどこかで拾っていただくことが
可能ならば、もともとは一人で行こうと思っていた。
募集の窓口は「やまゆりファーム」さん。
素人でも全然大丈夫、日帰りでも何時からでも、と言っていただいた。
そんな話を口走ったとき、まどかちゃんが「私も行きたいと思っていた。
いっしょに行きます、いつですか」と言った。
まどか親友のやえちゃんも参加することになり、長距離運転は不安だから
南相馬まで電車とバスで行こうと計画していた。
そこへ急遽、まどか同僚カトくんが運転要員として参加してくれることになった。
それぞれの想いあって集まった4名、家族の反対も受けての出発。
留守番することになる猫の数は合計17匹ぞ。(やえちゃんちに13!)


目指すは双葉郡浪江町。
名ドライバー・カトくんの、頼りがいのある車と優秀なカーナビと、
それより優秀なカトくんの脳内GPSを持ってしても、
データに載っていない「通行止め」や「検問」にはその場で対応するしかない。
114号線を北上しようとして入り込んでしまった地域。
あたりは深い霧の中、この先通行止め(昨日の写真) @5:30
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線量計のアラーム設定を変えて来るのを忘れていて、
デフォルトが 0.3μSv/hになっている。
ちなみに浅草で 0.1〜0.2μSv/h。
原発事故以前の国の規定では 0.6μSv/h以上は放射線管理区域。

マニュアルを持って来ているはずもなく、当てずっぽうで設定をいじる。
1μSv/hまで上げることができたものの、鳴りっぱなし。
なんとかアラームをバイブレーションに変更できたら、ブルブルっぱなし。
3μSv/hくらいにしておきたいところだが、5まで上げてセット。

暗いうちにずいぶん標高の高いところまで来ていたようで、
海かと思ったら雲海が見えて目を疑った。
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線量計が震える。
3あたりからどんどん上がって 5.86μSv/h。
こんな場所に入ってしまうという警告は途中なかった。
「浅草の60倍近くね」と静かな車内に告げる。

イッコさんが飯舘村へ行ったとき、5を超えて恐ろしかったという話を
聞いていたからか、「ウム、こういうことか」という感じで恐怖はさほどなく、
放射線は突き抜けるんだね、車体も、この体も。そしてどうやっても
目に見えないし、肌に感じることもできないね、と実感する。
レントゲン一回や飛行機に比べれば…っていう言い回しは、
こういうときに使うんだろうかな。ともかく急いで退散しよう。

徹夜で走り続けて疲れも眠気もピークの時間帯、
霧の山道のくねくね、旅を終えてみればここが一番の難所だった。
眠気と車酔いでヘロヘロの私は最も役立たず、
安全に冷静に走り抜けてくれたカトくんに心から感謝。

除染実験中だそうな。
「立入禁止」の看板と、ブルーシート。その土どうするんですか。
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放射能さえなければ、こんなにも美しい田園風景がそこにあった。
初めての福島。
かつて「死の町」と発言した大臣がマスコミに叩かれ消されたが、
ならばこの理不尽で異様な現実を他になんと表現するのだろうか。
雑草は錆びたビニールハウスの枠を突き抜け、放棄された田畑にモリモリ、
標識や電柱をムクムク登って伸びる。自然の生命力。
むしろ自然はヒトの不在を歓迎するのかもしれない。
けれどそこには、置き土産として残され、今も降り止まない汚染がある。
とんでもなくとてつもなく取り返しのつかないことをしてしまったという実感。
置き去りにして逃げるしかない、底なしの無力感。
けれどもそれは、過ちに対して黙って従って逃げることと同じにできない。


バリケードもなく「ヒトケ」はある地点からふっと戻る。
夜の闇の中でそれを確認するのは「灯り」であろうけれど、
日中においては「雰囲気」でしかない。
店が開いていたり、植木が手入れされていたり、洗濯物が干されていたり、
誰かが誰かを待っているという、ヒトビトの関わりが確認できる「雰囲気」。
それでも車も歩いているヒトもほとんど見かけない。
雰囲気は、放射能と似ていると思った。
生きているのか、死んでいるのか、
体は? 心は?
生きられるの? 死ねというの?
その境は、機械で測ったところで曖昧だ。
そこに一律に線を引き、補償もなく出て行けだの生きろだの、
帰れだの帰るなだの、住民の人生を小手先で蹂躙するヒトビトは、
きっとここに足を踏み入れることは一度もない。


道を取り戻し、飯舘から南相馬。
6:30開店のコンビニで食料を調達。
牧場での待ち合わせは 9:00。

34号線を南下して、8:30、ようやく目的地近くまでたどり着いた。
再びヒトのいない家々、様々に放棄されたモノたち。
道ばたの草木が両脇から道路にはみ出している。
牛も含め動物たちも、いつ飛び出して来るかわからない。
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山道にはよくあるけれど、民家が見えていてこれはない。
枝が車窓をバキバキ叩く。
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このモッサ状態はやがて道を覆い尽くしてしまうのだろう。
ここには郵便も届かない。
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行き止まり。放れ牛に注意。
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こんなもので区切られている。
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牧場への道は開いている。
「希望の牧場へは警戒解除により途中まで入れます」
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ここが目的地、「希望の牧場」。
爆発から14kmの地点で一週間牧場に留まり、牛たちを守り続けた
牧場長・吉沢正巳さんの命がけの文字、「決死救命、団結」。
2011年3月17日にはいち早く浪江町から東京へ抗議に向かった吉沢さんが、
もう戻れないかもしれないという覚悟とともに、出発前に書き残した。
メモリアルでもモニュメントでもなく、その闘いは今も続いている。
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後に作業中に知ることだが、このブルドーザーでは
土などを移動させる他、牛の死骸を持ち上げて運ぶ。
これまでいったい何頭が運ばれたことだろう。

看板には同じ文字で「殺処分反対」
「希望の牛たちを生かして、殺処分、餓死はやめよう」
「東電、国は大損害つぐなえ」 とある。
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これでもかと乱立する送電鉄塔が、禍々しく恨めしい。
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東京に電気を送るための施設が暴走し、設定された警戒区域。
「ヒトがヒトを棄てる」こととは何なのか、
ヒトさえも棄てられる中で置き去りにされた動物たちとは何なのか、
そこに残るヒトビトが絶望の泥沼に見いだす希望とは何なのか、
それらすべてを看過し黙殺する都会の暮らしとは何なのか、
原発とは、放射能とは、畜産とは、肉食とは。
「お手伝い」と言えば聞こえがいいが、すべては自分のため、
私は自分が設定する到達可能な「最前線」に向かった。

出発に当たっては、いろいろな意見があった。
「被曝してまでそんな場所に行って何になる」
「ここにいたって他にもできることがある」
たった二日。何にもならない。原発は止まらないし牛たちは救えない。
では東日本に於ける長期の低線量被曝や内部被曝はどうか。
そこに留まってただ画面の情報を眺めているだけで、何になる。
何かになったか? 一年半が経ち、何か一つでも?
福島の苦しみを閉じ込め置き去りにして、大飯原発は再稼働された。
大飯町議員は言った。「だって、あれは、福島で起きたことでしょ?」

行くことも、行かないことも、同じに無力であるなら
手伝いを募集しているヒトたちがいる以上、猫の手になりたいと思った。
画面だけでなく、自分たちのしてきたことの結果をこの目で見たかった。
どれだけ願っても心で叫んでもデモで叫んでも署名しても、原発は止まらない。
その悲惨を理解する想像力が、まだまだ足りていないのだと思った。
想像で足りないならまず体験するしかないと思った。

牧場からの立ち退き、牛たちの殺処分は今にも強行される状況にある。
そうなれば黙殺は完了する。
バリケードも何もかも通り抜けて移動する放射能の封じ込めではなく、
補償の完了でもなく、あらゆる被害実態と、生きる権利の封じ込めだ。
すべては再稼働と、さらなる推進のため。
ここにいてできることも、確かにあるのかもしれないが、
とりあえず私には見当たらなかった。


広島被爆者の故・山下久代さんから、託されたこと。
「この世から核をなくしてください」
「与えられた命を燃やして生きてください」
広島、長崎、ビキニ水爆実験。被爆/被曝後の国/世界の対応は、
まさにいま福島を通して繰り返されている。
山下さんは、私が原発に近づくと言ったら、なんとおっしゃっただろうか。

80代半ばで「今が私の青春なの」と輝いておられた山下さん。
亡くなる半年前にもNYやDCまで行って核拡散防止を世界に訴えた。
その気力、気迫、生命力、凛とした強さに、いつも圧倒された。
半世紀以上に渡る被爆者の訴えと闘いは、二度と誰の上にも
爆弾が降らないようにというものだった。

誰もたいせつなヒトを焼かれたくないし、戦争に送りたくないし、
被爆も被曝もしてほしくなどない。
けれど一歩「自分」を出れば、急に現実感が遠くなり、
誰の家族が死のうと「まあね」的な雰囲気。
これは絶対的に想像と体験の不足だと、自分に照らして思う。
原子力と言い換えられた核の問題を一部のヒトに押し付けたまま、
経済が命に優る社会で、「命をたいせつに」などできない。と私は思う。
山下さんのメッセージは
「核がなくなりますようにと "祈って" ください」でもなく
「与えられた文明社会を "謳歌して" ください」でもない。
世界は平和でもないし、原発は安全でもない。
ならば二度と見過ごしてはならないはずなのだ。


「もともと食肉用に殺されるはずだった牛」
「ペットと産業動物の倫理は違う。彼らはこうして生かされることを望んでいるのか?」
ハイ自分も肉をいただきます。そのことも、どうなのかと思っている。
屠殺場での虐待や、生きたまま毛皮を剥がれる動物たちや、
実験を繰り返される動物たちや、そんな動画はまだ見られずにいる。
目をつむって知らん顔していることは、まだまだたくさんある。
牛たち、そして意味も分からず苦しんで死んで行った動物たちに
ごめんねと言いたい身勝手な気持ちもあった。

なにより、もしも自分が吉沢さんの立場だったなら、きっと私も
牛たちを置いて逃げられず、殺処分に同意することもとてもできなかったろうと思う。
これまでのいかなる倫理を当てはめようとしたところで、
噴煙が見えるほどの距離で原発の爆発に巻き込まれるという前提はなく、
納得できる道筋も提示されないまま突然そこで生きることを禁じられ、
誰にどう糾弾されようとできないものはできないと思うからだ。


原発が爆発して露になったのは、そういうモノだった。
ニンゲンのあらゆる膿であって、私にとってその罪深さは
放射能を遥かに超えて恐ろしかった。
宇宙や地底がその誕生以来放射性物質に満ちていることは怖くない。
ヒトがそれを扱おうとしてきた奢りが恐ろしい。
しかもそれが過ちであると、これまで何度も示されてきた。

福島での原発事故は、ついに日本中、世界中が過ちを認めざるを得ない
できごとだと思っていた。世界が方向転換する唯一のチャンスとするしか
救いようのないできごとだと。
汚染物質の飛散を防ぐ手段は一年経っても用意されず、
事故を擁護するための手段だけは周到に用意されていた。
それでも消費スタイルを変えず、原発再稼働や輸出を許し、
復興に使われない増税に従い、電気料金値上げに従い、
彼らの描くこの社会に貢献し続けようという私たちこそ、
従順な家畜ではないのか?


「あなたはどうしてそう感情的で極端で、白か黒しかないの」
ハイそれはよく言われます。アホなんだと思います。
れんちゃんスイッチに似て、MAXか、ゼロか。
論理的に考えられない自分の頭をポカスカ叩いて座っているよりも、
猫の手になれるならいくらかマシなように、思うんだよ。


ともかく、心配してくれるヒトたちの反対を押し切って行くのは
多少心苦しくもあったけれど、これを機に話せたことはよかったと思う。
議論にもならず、感情のぶつけ合いのようなものだったけれど、
間違っているかもしれないけれど、それでも。
「他にできることがある」と考える人はその「他のこと」をやればいい。
それぞれが、考えて、行動するしかない。
たとえ間違っても、修正できる。
NO を強く心に突き刺してさえいれば、
安全だから再稼働、というほどには間違えようがないと思う。


と、私の心の準備といえば、こんなくらいのものだった。
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放牧場。
麦わら帽に三つ編み(オエッ)で、お手伝いに来ました〜
と駆け下りたくなるのどかさ。
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着替えをした土の上で測った 2.72μSv/h。
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すべて土の上での作業。干し草も汚染されている。
できるだけ粉塵を吸い込まないよう工業用マスクは必須。
牧場の方たちはすべて剥き出しだけれど、それでも、
これだけは、とメンバーに配る。暑くても、外さないでほしい。
使い捨てられるよう、各千円以下で作業服やバッグ、帽子を揃えた。

牛たちは約400頭。
福島市の梨園の阿部さんの梨の樹も400本だったな、と思い出す。


つづく



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旧ブログ『今週の銀次親分』
by ginji_asakusa | 2012-09-10 19:03 | お出かけ


浅草ギャラリー・エフの看板猫・銀次親分の日々。


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